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神戸地方裁判所 昭和61年(行ウ)8号 判決

原告

中野光雄

中野政子

中野照海

中野公子

中野博之

中野幸子

中野みどり

右原告ら訴訟代理人弁護士

川崎裕子

川崎全司

被告

神戸市

右代表者市長

笹山幸俊

右訴訟代理人弁護士

奥村孝

石丸鐵太郎

中原和之

堀岩夫

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  請求

兵庫県収用委員会が昭和六〇年一二月一八日付けで原告らに対してした別紙損失補償目録一記載の内容の金銭による補償を、別紙損失補償目録二記載の内容の替地による補償に変更し、被告は、原告らに対し、別紙損失補償目録二(一)ないし(三)記載のいずれかの内容の替地による補償をせよ。

第二  事案の概要

一  神戸市を起業者とする神戸国際港都建設計画新住宅市街地開発事業横尾地区新住宅市街地開発事業(以下「本件事業」という。)に関し、兵庫県収用委員会が、昭和六〇年一二月一八日付けで、原告ら所有の土地を収用し金銭による損失補償をするとの土地収用裁決(以下「本件裁決」という。)を行なったところ、原告らが、被告に対し、原告らは被告が替地を提供するとの約束の下に本件事業用地を提供し、被告は右事業用地を使用し既に事業を完成させていること、被告が原告らに対して、原告らの指定した替地を提供することは、被告の事業又は業務の執行に何ら支障を及ぼさないことなどを理由として、替地の補償を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告中野光雄(以下「原告光雄」という。)は、被告との間で、昭和四四年一二月二六日付けで覚書を締結し(以下「旧覚書」という。)、原告光雄は、自己の所有する神戸市須磨区多井畑字東山上一三番一(昭和四五年二月一九日同所一一番一に合筆)所在の図上求積約三〇〇〇坪の土地(以下「本件土地」という。)を被告が施行していた第Ⅱ期須磨団地の住宅経営計画事業用地として、被告に売り渡すことを約し、右覚書締結後、被告が採土、宅地造成その他必要があるときは、本件土地及びこれに隣接する原告光雄所有地に立ち入り使用することを異議なく承諾するとともに、被告は、本件土地の一部を原告光雄に留保し、被告所有の青山バス停付近の土地を代替地として原告光雄に譲渡することとした。

2  被告は、第Ⅱ期須磨団地の住宅経営計画事業を、本件事業として新住宅市街地開発法(以下「新住法」という。)五条、都市計画法五九条により、兵庫県知事に対して事業認可の申請をし、昭和四六年四月二〇日、兵庫県告示第五七四号として認可告示された。

3  原告らと被告は、昭和五五年ころ、新たに、本件土地と被告所有の本件事業地外の土地を現状有姿のまま等価等積交換すること、原告らは被告が右交換による譲渡地を本件事業のために利用することを承諾する、旧覚書は破棄することなどを内容とする覚書を締結した(以下「新覚書」という。)。

4  原告らと被告は、昭和五八年二月二八日、新覚書履行のための交換契約を締結し、本件土地の大部分につき、代替地の提供が行なわれた。

5  その後、原告らと被告との間で、新覚書履行のため、本件土地の残地に対する代替地の提供につき交渉が行なわれたが合意に至らず、被告は、昭和五八年一一月一五日、原告らを相手方として神戸簡易裁判所に本件土地の残地と代替地の交換に関する調停の申立てをしたが、右調停は不成立となった。

6  被告は、昭和五九年一一月六日付けで本件事業のための土地収用裁決申請及び明渡裁決の申立てをし、これに対し、兵庫県収用委員会は、昭和六〇年一二月一八日付けで原告ら所有の土地を収用し金銭による損失補償を行なう旨の本件裁決をした。

三  争点

原告らの替地補償請求の相当性の存否

1  原告らの主張

(一) 本件土地に関する原告らと被告の交渉の経緯

(1) 第Ⅱ期須磨団地住宅経営計画事業に先行して行なわれていた第Ⅰ期須磨団地住宅経営計画事業の用地買収に際し、被告は、買収地の一部を宅地に造成のうえ土地所有者に留保還元する旨の契約を締結していたが、原告光雄に対しては、第Ⅱ期須磨団地住宅経営計画事業の用地買収の際には代替地を提供するので、今回の用地買収については、金銭買収に応じて欲しい旨の申出を行なったところ、原告光雄は、これを了承し、金銭買収に応じるとともに、被告との間で、昭和四四年一二月二六日、旧覚書を締結した。

旧覚書は、第Ⅱ期須磨団地住宅経営計画事業に際し、原告光雄は、本件土地を被告に売り渡すことを約し、右覚書締結後、被告が採土、宅地造成その他必要があるときは、本件土地及びこれに隣接する原告光雄所有地に立ち入り使用することを異議なく承諾すること、被告は、本件土地の一部を原告光雄に留保するとともに、被告所有の青山バス停付近の土地を代替地として原告光雄に譲渡することなどを内容とするものであった。

(2) ところが、被告は、代替地として譲渡することを約束していた青山バス停付近の土地のうち、原告光雄が予め希望していた土地を他の地主に譲渡してしまったため、原告光雄との間に紛争が生じ、昭和五五年ころ、新覚書を締結した。

新覚書は、本件事業に伴い、原告らと被告との間で、本件土地と被告所有の本件事業地外の土地を現状有姿のまま等価等積交換すること、原告らは、被告が右交換による譲渡地を本件事業のために利用することを承諾することなどを内容とするものであった。

(3) 原告らは新覚書の締結を前提として本件土地を提供し、被告は右土地を使用して既に事業を完成させている。そして、被告が原告らに対して同人らの指定した土地を提供することは、被告の事業又は業務の執行に何ら支障を及ぼさないし、難しいことでもない。

そのうえ、原告らの指定した土地の一部は、被告が新覚書において替地として提供する旨を申し立てた土地であるうえ、既に原告らが本件土地の代替地として提供を受けた土地と隣接、近接する土地であり、原告らは、新覚書に基づき、同地にゴルフ練習場及びその付属施設を建設する予定であり、同地の提供がなされなければ、原告らの計画するゴルフ練習場経営事業に支障をきたすことになり、将来において、従前の生活、生計を保持できなくなる恐れがある。

また、原告らの指定した土地の一部は、同地に隣接する同人ら所有地が囲繞地であることから、公道への進入道路として必要な土地である。

(二) 替地補償の相当性

(1) 土地収用法八二条二項は、土地所有者の替地の要求が相当であり、かつ、替地の譲渡が起業者の事業又は業務の執行に支障を及ぼさないと認められるときは、替地による補償の裁決をすることができる旨を規定する。この規定は、右の要件に該当するときは必ずこの裁決をしなければならないとの趣旨であって、収用委員会に自由な裁量権があるわけではない。すなわち、右条項は、単に、「収用委員会が相当と認めるとき」と限定せず、裁決についの要件を列挙しており、このことから見れば、この規定は、ある程度の裁量判断を収用委員会に許容しているとしても、その裁量には当然の限界があり、客観的に法の要求する替地補償の要件が備わったときは収用委員会は替地補償の裁決をする義務がある。

(2) また、替地補償要求の相当性の判断が覊束裁量でなく自由裁量であるとしても、以下の事実からすれば、兵庫県収用委員会は、裁量権の限界を逸脱し、裁量権を濫用している。

すなわち、新住宅市街地開発事業においては、収用権を発動して一方の個人から取得した土地は、開発後、別の個人に分譲される。その収用権の発動の根拠となる「公共性」は、通常の収用の場合と比して、その内容が著しく異なり、いわば「公共的私用収用」というべき性格を有する。新住法は、「人口の集中の著しい市街地の周辺の地域における住宅市街地の開発に関し」、新住宅市街地開発事業の施行によって健全な住宅市街地の開発等を図ることを目的としている(同法一条)。しかし、新住法一条にいう「人口の集中の著しい市街地」という前提は、時の流れの中で社会情勢の変化や都市政策の推進とともに急激に変容しつつあるのであり、「公共性」の中身についても十分に検討されるべきである。

また、本件収用裁決申請時において、起業者である被告は、土地所有者たる原告らの同意の下に、収用対象土地を使用して造成し、全ての工事を完了させており、また、事業時において原告らと被告との間には、①土地は互いに交換すること、②交換比率は等価等積交換とすることを内容とする合意が存在する。替地補償要求の相当性を判断するに際しては、当事者間の従前の交渉経緯、合意内容等が当然に斟酌されなければならない。しかも、本件で右の交換に関する交渉が行き詰まったのは、被告が新覚書において等価等積交換を約束しながら、工事完了後の時点において、本件土地の残地と渋人谷、地獄谷の土地交換比率を一対三と主張するなど右合意に背いた点にあり、被告の行為は信義則に反するものである。

(三) 以上の点からすれば、原告らの替地補償の要求は相当性があり、しかも、被告の事業又は業務の執行に支障を及ぼさないのであるから、兵庫県収用委員会は、原告主張の替地補償の裁決をする義務があり、また、仮に替地補償要求の相当性の判断につき、収用委員会に裁量権が認められるとしても、兵庫県収用委員会は、その裁量権を逸脱し、裁量権を濫用しており、被告は、原告ら主張の替地補償をする義務がある。

2  被告の主張

(一) 土地所有者の土地収用法一三三条に基づく損失の補償に関する訴えは、起業者に対して損失補償金の給付のみを請求し得るのであって、損失補償金の給付に代えて、替地の提供を起業者に求めることはできない。

(二) 土地所有者から替地をもって損失補償すべき旨の要求があった場合でも、収用委員会は、その要求が相当であると認められない限り、替地補償の請求はなし得ない。ここに、替地補償の要求が相当であるというのは、金銭補償によったのでは、被収用者の受ける損失を填補し難いような特別の事情が存する場合を指すものと解すべきである。しかしながら、以下の事実に照らせば、原告らにはそのような場合に当たる事実は認められない。

(1) 被告は、原告らに対して、既に八〇七四平方メートルの代替地を提供済みである。

(2) 本件土地は、従前は雑木の茂った山林であり、原告らの手によって植林等の利用又は日常的な管理をされたことがない土地であり、代替地の必要性は認められない。

(3) 原告らは、代替地がなければ居住のため、あるいは職業上支障をきたすとは認められない。

この点、原告らは、同人らが替地として要求する土地の一部は、既に同人らが本件土地の代替地として提供を受けた土地と隣接、近接する土地であり、原告らは、同地にゴルフ練習場及びその付属施設を建設する予定であり、同地の提供がなければ、同人らの計画するゴルフ練習場経営事業に支障をきたすことになり、将来において、従前の生活、生計を保持できなくなるおそれがある旨を主張するが、そもそも原告らが実際に右事業を予定しているかどうかが極めて疑わしいし、将来予定する事業のための替地の要求は、相当性を有しない。そのうえ、原告らが右付属施設建設予定地であると主張する土地は、同人らがゴルフ練習場予定地であると主張する土地から五〇メートル以上も離れており、右事業にとって必要不可欠な土地とは言い難い。

また、原告らは、新覚書に基づく交換契約により昭和五八年一〇月一四日に取得した土地を第三者に転売して巨額の利益を得ており、右土地を代替地として提供した場合に同様のことが行なわれるおそれがある。

また、原告らは、同人らが替地として要求する土地の一部は、同地に隣接する原告らの所有地が囲繞地であることから、公道への進入道路として必要な土地である旨を主張するが、右原告らの所有地は、地目が山林であり、現在何の用途にも利用されていないこと、公道へは被告所有の高倉台小松公園へ通じる道路を利用すれば足りることから、右替地要求は相当性を欠く。

さらに、原告らが替地として要求する高倉台の土地は、都市計画決定により、緑地としての用途が定まっており、高倉台の環境を保全するため現況のまま管理することが必要なため、同地を代替地として提供することはできない。

第三  争点に対する判断

一  争いのない事実、甲第一号証ないし第四号証、第一〇号証の一ないし七、第二三号証の一、二、乙第三七、第三八号証及び原告中野照海(以下「原告照海」という。)本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  原告光雄と被告とは昭和四四年一二月二六日、旧覚書を締結したが、その内容は、原告光雄が同人所有の本件土地を第Ⅱ期須磨団地住宅経営計画事業用地として被告に売り渡し、その代償として、被告が、本件土地の面積の一〇パーセント相当分を同事業用地内の造成完了宅地(以下「本件替地(一)」という。)及び同相当分を被告所有の須磨一団地住宅経営事業区域内青山バス停付近の土地(以下「本件替地(二)」という。)を概ね一区画一〇〇坪の宅地に造成して、原告光雄にそれぞれ譲渡するというものであった。

2  ところが、旧覚書が前提としていた事業が第Ⅱ期須磨団地住宅経営計画事業から新住法に基づく本件事業に変更され、事業用地内の土地である本件替地(一)を被告が提供することができなくなったこと、旧覚書による本件土地の面積が約三〇〇〇坪という概略になっていたことからこれを確定するために旧覚書を破棄して新しい覚書を締結する必要があったこと、本件替地(二)における「青山バス停付近」という記載の解釈をめぐり原告光雄と被告との間で紛争が生じたことなどから、昭和五五年ころ、旧覚書を破棄し、原告らと被告は、新たに新覚書を締結した。

3  新覚書の内容は、原告らは、その所有にかかる新覚書添付別紙1のA地として表示された土地を、被告は、その所有にかかる新覚書添付別紙1のB地と表示された土地をそれぞれ現状有姿のまま提供し、等価等積交換を原則とすることを約束するというものであり、右等価等積交換というのは、文字通り等しい価値の土地を等しい面積で交換するという趣旨のものであった。

4  被告は、新覚書に従い原告ら所有地と被告所有地との交換案(甲第四号証)を作成し、土地交換契約書(甲第一〇号証の一ないし七)記載のとおり土地の交換が行なわれ、原告らは、合計6361.43平方メートルの造成済みの土地を取得した。しかし、別紙損失補償目録一(一)ないし(三)記載の各土地の交換は、被告が提供する土地が都市計画決定に基づき緑地として指定され、その解除が困難であったり、隣接地との関係で面積が確定できなかったため交換が成立しなかった。

交換が成立しなかった右部分については、原告らと被告との間でその代替地についての交渉が行なわれ、原告らから被告に対して、被告所有の都市計画道路の塩屋多井畑線と神戸三木線が交差する地点の角地(別紙損失補償目録二(一)記載の四筆の替地対象地)につき、原告らが提供する土地と一対一の比率で交換して欲しい旨の申し入れが行なわれた。被告は、右角地を鑑定したところ、原告ら提供の土地と右土地の評価につき一対3.2という鑑定結果が得られたため、原告ら提供の土地と右角地との交換比率を一対三と主張した。原告らは、右交換比率を一対1.2まで譲歩したが、それ以上の歩み寄りはなされず、交換が行なわれるに至らなかった。

5  原告らは、本件裁決申請における審理において本件請求のとおり替地補償の要求をしたが、兵庫県収用委員会は、右替地による補償を認めなかった。

二1(一) 土地収用法は、①市場経済を前提とする社会においては財産的価値及びその損失は全て金銭という価値尺度をもって評価可能なこと、②金銭は最も融通性の高い資産であるから金銭補償が行なわれれば、土地所有者は従前の土地と同価値の代替地を望むときには補償金によってこれを取得し得ること、③現物補償を原則とすれば起業者には確実にこれを提供し得る手段が欠けることなどから、金銭補償を原則とし、ただ、市場経済が有効に機能しない場合には、金銭補償では被収用者の生活を保持し得ないことがあることに鑑み、例外として替地による補償を認めている。

右土地収用法の立法趣旨に照らせば、収用される土地の所有者が起業者の所有する特定の土地を指定して替地の要求が認められるためには、替地要求が相当であり、替地の譲渡が起業者の事業又は業務の執行に支障を及ぼさないことが必要である。そして、ここに替地の要求が相当であるとは、被収用者側に、金銭補償によったのでは代替地の取得が困難であり、かつ、代替地を現実に取得しなければ従前の生活、生計を保持し得ないと客観的に認められる特段の事情の存する場合をいう。

替地による補償の要否の判断は、収用委員会の合理的裁量に委ねられているのであるが、右替地補償要求が認められた趣旨に照らせば、右の二の要件を充足しているときには収用委員会は替地による補償の裁決をしなければならず、起業者は、土地所有者からの土地収用法一三三条に基づく替地補償請求に対して、替地を提供しなければならないと解すべきである。

被告は、この点につき、土地収用法一三三条に基づく損失補償に関する訴えにより、損失補償金の給付に代えて、替地の提供を起業者に求めることはできない旨を主張するが、右に述べた替地補償要求が認められるための要件を充足している場合には収用委員会は替地による補償の裁決をしなければならないこと、旧土地収用法八二条は「保証金額ノ決定ニ対シテ不服アルモノハ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得」と規定していたにもかかわらず、司法裁判所の判例上は、補償金額のみならずその金額確定に必要な事項についても司法裁判所の権限に属すると解されており(大審院大正九年七月二三日・連合部判決民録二六輯一一三四頁)、現行土地収用法制定に当たってもこれを受けて、一三三条及び旧一二九条二項において、「補償金額」との文言に代え、「損失の補償」との文言が用いられた経緯があることに鑑みれば、一三三条にいう「損失の補償についての不服」とは、補償金額についての不服にとどまらず、広く、補償の方法についての不服も含み、起業者に対して損失補償金の給付に代えて替地の提供を求めることもできると解すべきであり、被告の右主張は採用できない。

(二) そこで、原告らの替地による補償要求が、右に述べた替地補償要求が認められるための要件のうち、替地の要求が相当であること、すなわち、金銭補償によったのでは代替地の取得が困難であり、かつ、代替地を現実に取得しなければ従前の生活、生計を保持し得ないと客観的に認められるような特段の事情が認められるか否かにつき検討する。

(1) この点、原告らは、同人らが替地として要求する土地の一部及び同地に隣接する同人らが既に被告から本件土地の代替地として提供を受けた土地において、ゴルフ練習場及びその付属施設を建設する予定であり、同地の提供がなされなければ、原告らの計画するゴルフ練習場経営事業に支障をきたすことになり、将来において、従前の生活、生計を維持できなくなるおそれがある旨を主張する。

しかし、そもそも、右に述べた土地収用法が例外として替地補償要求を認めた趣旨に鑑みれば、将来予定する事業のための替地の要求は、代替地を現実に取得しなければ従前の生活、生計を保持し得ないと客観的に認められるような特段の事情が存する場合に該当せず、相当性は認められない。

また、原告らは、新覚書を締結した昭和五五年当時には、既にゴルフ練習場経営事業計画を立てていた旨を主張し、これを裏付けるものとして、甲第八号証の一、二を提出するが、これらは概略の明細見積書にすぎず、これ以外に何ら具体的な計画書等もなく、また、原告照海の当裁判所昭和六一年(行ウ)第七号事件における本人調書(甲第二三号証の一)によれば、右事業計画は、昭和五三年ころから計画があったと述べているが、本件における本件尋問においては、右事業計画を昭和四〇年ころから立てていた旨を供述していて、一貫しておらず、右供述も採用できないのであって、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(2) 原告らは、原告らが替地として要求する土地の一部は、同地に隣接する原告ら所有地が囲繞地であることから、公道への進入道路として必要な土地であると主張するが、土地収用事件の第四回審理録(乙第三三号証)によれば、右隣接所有地は、現況が山林のうえ、もともと囲繞地だった事実が認められること、被告が被告所有の高倉台小松公園に通じる道を利用すれば足りる旨を主張するところ、原告照海も、その本人尋問において、右道路を使用して良いのであれば、右替地要求にはこだわらない旨を供述していることから、右替地補償要求には相当性が認められない。

2 さらに、右一で認定した原告らと被告との交渉経緯及び合意内容等に照らしてみても、被告の行為が信義則に反するとは認められず、また、兵庫県収用委員会が原告らの替地補償を認めなかったことにつき、同収用委員会が有している裁量権を逸脱し又は濫用したとは認められない。

三  以上のとおり、被告には、原告ら主張の替地補償をする義務があるとする原告らの主張は採用することができない。

第四  結論

よって、原告らの請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官下村眞美 裁判官桃崎剛 裁判長裁判官辻忠雄は、退官につき、署名捺印することができない。裁判官下村眞美)

別紙損失補償目録〈省略〉

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